足利義輝の野望
1562年、足利義輝は北畠、山名、姉小路、そして弱体化した三好などの小大名を傘下に加え、さらに勢力を伸ばしていた。
京、難波を中心とする日の本の中心を押さえた足利は、急速に他勢力をのみこんでゆく。
そしてついに、九州北部を中心に勢力を伸ばしていた、覇者・大友との決戦が確実になった。
「藤孝、この戦いは避けられないであろうな」
「はは、しかし我らは近畿を抑え、物資、人材で圧倒的に優位に立っておりまする。今こそ大友を討つときでありまする」
「では藤孝、留守居を頼む。私は各地の将兵をたばね、大友義鎮と雌雄を決しよう」
「足利譜代の森田浄雲をはじめ、戦上手の島清興、柴田勝家、羽柴秀吉、北畠晴具などが参陣すれば必勝にございまする」
1562年春、足利義輝は室町御所を出陣し、土佐国・四万十川のほとりに達した。2万以上の大軍である。
対する大友義鎮は蒲池鑑盛などの譜代の臣をはじめとして、阿蘇惟将などの九州諸大名が参戦した。
「雷切の戸次鑑連はおらぬか」
「旗印はありませぬ。留守居にございましょう。」
「そうか……」
義輝は緊迫した戦線でありながらも、軍神とも呼ばれる戸次鑑連の不在に安堵した。
こちらも猛将、智将と呼べる者たちを従えてはいるものの、戸次鑑連の名声は絶大であり、脅威であったのだ。
重臣・細川藤孝は室町御所に置いている。
京極高吉、和田惟政といった側近も留守を任せていることで、背後の不安は無い。
「もはや小細工は通用しませぬ。大友の砦を目指して前進しましょうぞ」
宿老・森田浄雲が進言する。羽柴秀吉、柴田勝家も同意する。
「本隊は大友勢の正面を攻撃し、突破する。島清興ひきいる騎馬隊は東の砦を攻撃し、背後に回れ。法螺貝を吹けい、具足を持てっ、いくぞ!」
「正面は」
「大友の先鋒・蒲池鑑盛にござりまする」
「よし、一番槍もらった!槍を突き出せい。」
足利義輝が正面を攻撃し、後方から森田、羽柴、柴田、前田などが殺到する。蒲池が砦に撤収すると、阿蘇、有馬などが後を詰める。
「砦はどうなっている」
諜報方が急きたてて状況を説明する。その顔に余裕は無い。
「蒲池隊が守備。阿蘇、有馬、大友義鎮などが到着し、落とすのには時間がかかりまする」
「味方は」
「前線の羽柴隊が苦戦しておりまする。前田隊が弓矢で援護しておりますが、大友本隊の気勢は高うございまする」
「柴田隊も多勢を目前にして苦戦しておりまする。勝家殿が奮戦しておりまするが、長くは持ちませぬ」
「砦が落ちねば……」
敵味方、ほとんどの隊が集結し、乱戦状態となった。
そこへ、全速で駆ける伝令隊が、本陣になだれ込んだ。
「どうした!」
思わず義輝はその場を動くところであった。しかし、伝令が無傷であることを見て、義輝はかろうじて冷静さを保った。
「島清興殿が東の砦を落としてございまする。被害は少なく、すぐに隊列を建て直し、大友の背後に回るとのこと」
予想外の速さに、義輝は一瞬、天を仰いだ。
「よし、左近の大手柄じゃ!者ども、左近に続けい、砦を落とすぞ!」
崩れかけていた陣形が整い、総攻撃がかかる。そしてついに、砦の最上部に足利の御旗が立った。
「羽柴隊、柴田隊に援軍を差し向けよ。森田大和守護、急ぎ2000の兵をもって救援に」
「はは」
重厚な具足を鳴らして森田浄雲が陣を出る。入れ違いに伝令が入陣した。
「島隊が大友本隊の背後に突撃をかけましてございまする」
馬のひづめが地面を蹴る音。意気の高い兵たちの声。
「おお、ここまで聞こえておるわ……」
かくして大友義鎮は敗走。西の覇者は足利義輝に定まった。
大友家は北九州と四国にある三国を安堵されて存続、ここに足利義輝は、日本の西半分をもつ大将軍となったのである。
その後、関東を転戦し、東国の各大名を平定。
群雄割拠で圧倒的な勢力をもたなかった諸大名は、ことごとく西日本を制覇した足利家の軍門に降った。
13代足利義輝が再興したともいえる足利幕府は、その後三百年にもわたる平和な時代をつくりあげるのである。